消防手
「定位につけー]「えんぼく一つけー」
 子どものころ、格好いいといえば軍人さんの次は消防手だ。軍人は一度にあまり大勢見ることはできないが、消防手はかなり多かった。小頭が小旗を持って号令をかけると、あごひもの付いた帽子をかぶった消防手が、腹がけから曲がった鉄棒を取り出して、ポンプに猿木(えんぼくを取り付ける。これらは訓練だが、実際の火災の時の取り付けは、ついぞ見た経験はなかった(いずれも取り付けられてしまった後だ)。
 現場へ荷車に積んだポンプを一刻も早く引っぱって行く。ワッショイ、ワッショイ。それは気合いを入れて、あわてふためいて。水を出すために車からポンプを下ろし吸水管をつなぎ、左右へ分かれて猿木につかまる。上下する押し上げポンプの水はホースを伝わり、強くあおるほど威勢よく(といっても3〜5mくらいか)水がとび出すのだ。いかに若者でも数分も続ければ息が止まりそうだが、力をゆるめれば水が出ない。火事場の馬鹿力で全精力を出し切って消火に当たる。消防手……ご苦労さん。
 130戸の古海で記憶にある火災だけでも、こうしたポンプ消火に頼っていた火災が10回以上あった。いずれも火元の家は丸焼け。類焼もかなりあった。この絵は毛見の大火。昭和9年5月3日だと記憶していたが。
もくじへ 
拡大する
next