うんそんま(運送馬)
 「ゴトッ」「ゴトッ」車のきしむ音。見慣れた運送馬「ひで運送」が今日も来た。後で分かったことだが、この運送引きは秀雄という名の人だった。子どものぼくたちはそんなことは知らないが、「あっ、ひで運送だ!!」と後をついて歩いた。学校帰りなどつかまってぶら下がったりするのが楽しみだった。時々「ひでさ」が「やんどもーッ」と振り向くと「押しているんだぜ」なんて言い訳なんかしたもんだ。
 道幅が狭いので、よくカーブのところで片輪がセギにぬかることがあった。ひでさが馬に気合いをかけてひき上げる様子をはらはらしながら見守ることもあった。通称こびきさの坂が上りで、しかもカーブで毎回そこで手間取っていた。そこは道が一段低い堀割りの沢みたいになっているので、ぼくたちは土手の上で見ることが多かった。
 上り口でしばらく休んだ後、ひでさが気合いをかけると馬は勢いよく上る。30mほどいくと馬も疲れ、なかなかスムーズに上れない。ひでさは急いで車輪の後ろへ石ころを置き、スリップを防ぐ。ちょっと一息入れて大声でムチ打つ。馬は鼻息荒く必死の力で駆け上がる。ひでさは車輪のアミダ棒に手をかけ補助する。正に人馬一体の劇的シーンだ。ぼくたちは手に汗にぎり上り切った時、何かほっとしてワーと歓声をあげたりしたっけ。
もくじへ 
拡大する
next