餅搗き
 「トッチーン」「トッチーン」土間に湯気が漂い、餅搗きの音が家中に響く。暮れの28日午前2時ころ、まずひと臼目を搗く音でぽくたちも目覚める。
 大釜の火が赤々と燃える。重ねられたせいろうの隙間から湯気が立ちのぼる。家中に糯米の香ばしい匂いが充満している。姉も母も婆も父も兄もみんな起きてそれぞれの部署についている。
 1つのせいろうに4升。これがひと臼。20分ぐらい搗かないとできあがらない。振り上げた杵は、臼の真ん中の餅の丸みのあるところめがけて力いっぱい振り下ろす。当たる瞬間に少し前へ杵をズラす。その時あいどりはサッと杵をあげる補助をし、真ん中へ餅の端っこを引っ張り込む。その餅は弾力で元へ戻ろうとするが、戻る前にまた杵を振り下ろすのである。搗き手とあいどりの呼吸が大切だ。しかしなんといってもひと臼ごとに杵を20分も振り上げ、振り下ろすことは決して楽ではない。着ていた服を1枚脱ぎ2枚脱ぎ、汗を滲ませ呼吸も荒くなってくる大変な仕事だった。のし餅、おかざり、豆もち、最後は栗もちとか粉もちになってようやく餅搗きはおしまいになる。そして夜明け。ラジオのニュースも流れ出した。
 「ことしやみんなで12臼か」母たちの話声。どこの家でも、今日が餅搗きの最っ盛り。「くんちもち(29日)は縁起がよくない」とのことで・・・・・。
もくじへ 
拡大する
next