こやし引き
 3月も中旬ころになると、田園へこやし引きの橇が何台となく現れるようになる。雪が固くなると朝はほとんどぬからない。 トタン張りの橇はこんな時滑りが大変いい。夏からの堆厩肥を橇につけ、自分の田圃や畑へ運ぶのだ。川尻は1日に8往復する。うまれどから、たて野の裾が最も危険な場所だ。夏場は全く道のない土堤や川端が雪崩のため雪が多くなっているので臨時の道となる。古海川も橋がないが、雪の橋のために渡ることができる。川端の柳がふくらみ、そのころよく手折ってきた。夏の道の方がよほど坂が多いが、雪道はそんなでもない。子どものぽくが行く時は兄や父の橇の後押しをし、帰りのカラ橇を引っぱってくることが多かった。幹線は橇の跡が車輪跡のようにきちんとできており、幅がどこの家のも規格が同じなので、力はほとんどいらなかった。対向車ならぬ対向橇とのすれ違いでは、カラ橇は必ず道を譲る。 3月の日差しは強く、真っ黒く雪焼けし、ワラ靴が湿って重い。若い娘さんや女性は手拭いを二重三重にかぶり、日焼けを防いでいた。
 雪が消えるにともなって堆肥が穴の形に行儀よく方形に並んで、高い所からは点々と見える白と黒のコントラストの美しさを、今でもはっきりと思い出せる。
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