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首だけのお地蔵様
作・牟礼村青年団
さし絵・石川いずみ
採集地・地蔵久保

 むかし、むかし、北国に住む一人の若者が、善光寺参りへ行った帰りのことです。
 「遠くから善光寺まで来たかいがあったなあ。あの本堂は本当に立派だった。そういえばちょっと腹減ったなあ、よし、あそこの茶屋で晩飯でも食おう。」
 若者が近くの茶屋に入ると、とても美しい娘がそこで働いていました。
 若者はその娘と楽しく話しながら酒を飲んでいるうちに、何とかこの娘を自分の国へ連れて行って、嫁にもらいてぇもんだと考えました。
 若者は何度も娘を誘い、娘も、酔っている席のことだからと、あいまいな返事をして、若者と一緒に外へ出ました。
 若者は機嫌良く、娘と一緒に自分の国へ向かいました。ところが娘はだんだんと急ぎ足になり、そのうちに駆け出しました。
 若者はあわてて追いかけて、娘を捕まえました。しかし、娘は若者を振り切って逃げ出しました。
 若者は怒り、ついに腰から刀を抜いて追いかけ、道のかたわらにポツンと立っている人影が見えたので、振り上げた刀を力いっぱい下ろしました。すると「カーン」と音がして、首がころんと落ちました。よくよく見ると、なんとそれはお地蔵さんの首だったのです。若者は驚きあわててその首を拾いあげて逃げました。
 実は、茶屋の娘は、酒に酔って刀を技いた若者を見てびっくりして逃げ出し、暗やみに紛れてお地蔵様の影に隠れていたのでした。
 ところで慌てて逃げ出した若者は、「いくら酒に酔っていたからとはいえ、刀を振り上げながら娘を追いかけたり、お地蔵様の首を切っちまうなんて・・・。おれは、とんでもないことをやっちまったあ。」と深く反省しながらとぼとぼと自分の国へ向かいました。
 坂中峠を越えると、東の空も次第に明るくなり、小さな村が見えて来ました。若者は村に入って、村人に今までのことをすっかり話しました。村人は、「とんでもねえことをしたものだ。娘さんの身代りになって下さった、尊いお地蔵様の首を早く奉った方がいい。」と言いました。そ
れから村人は人を集めて相談し、丘の上に石畳をつくり、そこに地蔵様の首を安置しました。
 このお地蔵様は、首だけになった後も、多くの困っている人を助け、その名は広く知られるようになりました。それから、ここを地蔵首村がなまって地蔵久保村と呼ぶようになりました。

長野県 長野地方事務所 長野広域行政組合刊 長野地域民話集昔々あるところより
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