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夜蛇川物語

曹源院略縁起より
作・牟礼村青年団
さし絵・井上 早苗
採集地・高坂

 むかし、むかし、飯綱山のふもとに高坂村という大変豊かな村があり、みな仲良く暮らしていました。
 ところが、村の東にある、八蛇という小さな川が流れる谷の中の大変深い水たまりに、いつのころからか毒蛇が住みつき、夜になると村におりてきて、田畑を荒らして村人を困らせていました。そのうちに、昼間でも毒蛇は村にくるようになり、村人たちは、山や田んぼへ仕事にも行けず、大変困っていました。
 そんなある日、村を通りかかった若い侍が村の人の話を聞き、「それでは、わしが毒蛇を退治してやる。」と言い、夜蛇の谷へ入って行きました。しかし、一日たっても二日たっても、侍は帰ってきませんでした。村人たちはがっかりし、若い侍の死を悲しみました。
 それから、この谷に近づく者はいなくなり、豊かだった高坂村も、すっかりさびれてしまいました。
 しばらくして、修業の旅を続けている、尾張の国(愛知県)の老憎が高坂村に立ち寄り、村人の話を聞きました。
 「魔者のせいで、はだけ(畑)はみんな荒らされちまって、食うもんもねえ。退治に行ったお侍さんも食われちまった。おめえさんの力でなんとかならねえか。」
 老僧は、「私にまかせておきなさい。私の法力で毒蛇を退治してあげましょう。」と言い、夜蛇の谷に入って行きました。
 老僧は深い水たまりの上に突き出た岩の上に座り、静かにお経を唱えました。しばらくするとあたりが暗くなり、なまあたたかい風が吹いて、静かだった水面が、急にごうごうとうなりをあげて、うずを巻き始めました。
 その真ん中に二つの光が見えました。それは毒蛇の目だったのです。毒蛇は枯木のようにとがった角をふりかざし、目からは雷のような大きな声と火を吹き出し、老僧めがけて襲ってきました。老僧は少しも恐れず毒蛇に向かって言いました。
 「これ毒蛇よ、お前は悪いことばかりして村人を悩ませているが、それは、お前が本当に悪い蛇だからではない。悪い呪いがとりついているからだ。お前が心から普通の蛇になりたいと思うなら、自分の本当の姿に戻れるであろう。」
 すると毒蛇は、たちまち三〇センチくらいの小さな蛇になってしまいました。そこで老僧は蛇に向かってありかたいお経を唱えてやると、蛇は山へ帰って行きました。
 それから、高坂村も昔のように豊かになり、村人たちはこの老僧のために立派なお寺を建て、みな仲良く暮らしました。

長野県 長野地方事務所 長野広域行政組合刊 長野地域民話集昔々あるところより
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