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戸隠山

 神代の昔、素盞雄命は天照大神に向かっていろいろ乱暴を行ないました。すなわち天照大神がお作りになっている田の畦を壊したり、溝を埋めたり、神聖な御殿に汚物をたれ散らしたりしました。
 あるとき、大神が機を織っておられると、その家の屋根に穴をあけて、馬の皮を逆はぎにしたものを投げこみました。大神はそれを見て恐しく思われ、天の岩屋へお入りになって、戸を固く閉めて隠れてしまわれました。それからは、どこもかしこもまっ暗になって、いろいろの悪い神々が出てきて、あらゆる禍いが起こりました。
 そこで八百万の神々が相談をし、思兼命(中社の御祭神)のお考えで、鶏をたくさん集めて鳴かせたり、鏡や玉飾りを作ったり、あるいは榊の木の上の枝に玉飾りをつけ、中の枝には鏡を懸け、下の枝には白や青の布をつけ、大神のお出ましをお待ちしました。
 そのとき、手力雄命(奥社御祭神)が岩屋の影に隠れ、鈿女命(日の御子社御祭神)が日蔭葛のたすきをかけ、髪には葛をかけ、手には天の香具山の笹をもち、空の槽をふせて、その上で足拍子もおもしろく踏みならし、乳房を出し、股のあたりまで露にして踊ったので、あまりのおかさに、多勢の神々は高天原も一時に揺り動くかと思われるほど、どっとばかりに笑われました。天照大神は不思議に思われまして、岩屋の戸を細目にあけ、「私がここに隠れているので、高天原はもとより下界まですっかり暗いであろうに、どうして踊ったり、笑ったりしているのか。」
と仰せられました。そこで外に控えた神が、「あなた様よりも尊い神様がいらっしやるので、みな喜び楽しんで笑っております。」と申し上げました。このとき、他の神々がかの鏡をさし出して大神にお見せすると、鏡はきらきらと輝きわたり、そこに美しい大神の御姿が現われたので、いよいよ不思議に御思召してだんだんと岩屋からお出ましになりました。
 そこを、岩屋のかげに隠れていた手力雄命が豪雄無双の力をもって岩戸を開け、その御手をとって連れ出し申し上げました。
 このとき、手力雄介があまり烈しく岩戸を開けて投げましたので、岩戸は遠く下界に飛んでいきました。それが落ちた所が信州信濃の戸隠であり、戸隠山はそれによってできたと伝えられています。

長野県 長野地方事務所 長野広域行政組合刊 長野地域民話集昔々あるところより
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戸隠譚より
作・宮潭 嘉穂
さし絵・今井 芳郎
採集地・戸隠山