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戸隠村鬼女紅葉伝説

「鬼女紅葉伝説の里」より
編者・金子 万平
さし絵・今井 芳郎
採集地・荒倉山
長野県 長野地方事務所 長野広域行政組合刊 長野地域民話集昔々あるところより
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 紅葉は京の都に仕えていた官女でしたが、無実のつみを着せられ、山深い信濃の国へ流されてきました。
 初めは村人と仲良く暮らしていた紅葉は、やがて荒倉山を本拠とし悪事をはたらくようになり、鬼女と呼ばれます。
 荒倉山のふところ深く、小さな沢に面した二つの洞穴、これが「鬼の岩屋」といって紅葉が根城にしていたところです。
 これを聞いた朝廷は、鬼女紅葉退治を平維茂に命じました。
 しかし、地理がわからない維茂は、下祖山まで来て、紅葉の本拠を探しあぐねました。そこで弓矢によって占おうと見晴しのよい場所に立ち、八幡大菩薩を念じて、二本の矢を天に向かって放ちました。二本の矢は西北の方角に飛び、裾花川を越えてはるか志垣の里に落ちたのです。現在、その矢を放ったところに矢本神社、落ちたところに矢先八幡があります。
 維茂軍は勇躍して西北の方角に向かいました。途中、深い急流の渦巻く、橋のない裾花川を渡らねばなりません。幸いな事に、このとき、川の中に倒木が引っかかって、柵(しがらみ)のようになった所があり、やっとのことで渡ることができました。ここを柵橋といいます。
 維茂軍は志垣の里から途中、田頭の岩窟観音に祈願し、荒倉山をめざして進撃し、ついに鬼の岩屋近く、母袋の池に陣をしきました。
 紅葉一族の様子を探るため、維茂はほどよい林の中に幕を張って酒宴を催します。そこへ紅葉が何くわぬ顔をして加わり、一緒に紅葉を愛でて打ち興じました。紅葉も維茂が差し向けられたことを知ったので、腹をさぐりに来たのです。
 維茂はいよいよ軍勢を整えて、進撃しました。最初の激戦地は毒の平へ入る急傾斜地、木戸のあたり。両軍入り乱れての戦いを突破した維茂軍は勢いを得て進みます。そして、毒の平、竜虎ケ原が最大の決戦となりました。
 紅葉はついに鬼の姿となって現われ、妖術を使い、維茂軍を悩まします。しかし維茂は、八幡大菩薩と念じつつ剣をふるい、ついに紅葉を斬り伏せました。そして残党を追って釜壇岩から鬼の岩屋、山の峰まで進撃し、ほぼ掃討しました。維茂軍が勝ちどきをあげたところを、「安堵ケ峰」と呼んでいます。
 勝利を収めた維茂は、紅葉の遺体を志垣の矢先八幡近くの小高い丘に埋葬し、五輪の塔をたてて供養しました。これは今、「鬼の塚」と呼ばれ五輪の塔が残っています。